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井沢としを他 「第28回 ぎやまん展」 (7/10まで)

Gallery Coty(静岡県浜松市大平台)で開催中の「ぎやまん展」を拝見した。知人のガラス工芸作家・井沢としを先生が参加されているグループ展だ。

井沢先生以外の作家さんのことはよく知らないのだが、コカコーラの瓶をメーカーのロゴを残したまま上部を溶かしてグラスにリサイクルした作品や、歯や目玉を作った微妙に気持ち悪いユーモラスな作品、それから夫婦と思われる男女と子宮のなかでへその緒がつながった胎児をかたどった手の込んだ作品など、実験精神のある作品も出品されていた。しかし概ね、ガラス細工として親しみやすいブローチやグラス、花器として用いそうな器、金魚などをかたどった小物、アクセサリーなど、いわゆるガラス細工の多彩な共演という感じの展覧会だった。

ガラスといっても実にさまざまな種類がある。お酒の瓶などをリサイクルした青みがかったり緑みがかったりした色調を生かした素朴な味わいのものや、純度が高く透明で宝石のようなものなど、出品者の作品を見渡してみると「ガラス=無色透明」という観念はとても短絡的なものであることが分る。

完成品では涼やかな印象だが、ガラスとは非常な高温でなければ加工できない。どうやって作っているのか説明を聞いても正直イメージがよく沸かないが、大したものだとそれぞれに感心する。

井沢先生は「蜻蛉(とんぼ)玉」作りを教える先生でもある。「蜻蛉玉」とは模様が入って穴の空いた筒状のガラスのことをいうようだが、用語は慣例的なものであまり明確な定義はないそうだ。トンボの複眼をイメージして名付けられたという説もおそらく通説で確かなことは分らないという。英語では模様があろうとなかろうと、木や石やプラスチックのものとともに単に「ビーズ」の一種とされてしまうようだ。

今回出品されていた井沢先生の作品は、いわゆる「蜻蛉玉」ではなく、柄の部分が非常に長くチューリップのようなシェイプのグラスや、いびつな丸〜涙形あるいはブドウの房のような形のブローチ風の作品だった。全体の中ではどちらかというと地味だが、「蜻蛉玉」作りの経験を生かした、2つと同じものが無い1点1点に深みがあるブローチ風の作品に、僕は惹かれた。

先生自身、注文されて同じものを作るのは嫌だという。結果的に似たようなものが生まれることはあっても、ひとに強いられて納期が決まってたりする中で同じものを作るようなことはやりたくないね、と笑っていた。

井沢先生はブローチ風の作品には、比較的低い温度で融ける透明なガラスを好んでいるようだった。触ってみると純度の高い硬質なクリスタルガラスのシャープでクールな印象とは違い、明らかに柔らかく暖かみがある。いや確かにガラスの塊ではあるのだが、手で触れるとその違いが不思議にちゃんと感じられるのである。

その透明なガラスの中に、さまざまな色のガラスを巧みに組み合せ、伸ばしたり切ったり、剣山で突いて気泡を入れたりして、イソギンチャクのような海の生物にも、曼荼羅か、銀河系のような島宇宙にも見える世界を封じこめている。もちろん実際には色ガラスの上に透明のガラスを巻き付けて作るのだが。鮮やか過ぎない抑えたトーンや、色が混じりあってやや濁ったものを生かした作風には精神的な深みが感じられる。クリアガラスに封じ込められた、井沢先生の小さな宇宙。

色ガラスでも光を通さないような感じの作品だとまるで陶器のように見える。あるいは油絵の具で描いたように見える。それはそれで美しいのがだが、その上に「透明」なガラスを巻き付けているので、ガラスならではの奥行きや立体感が出ていて、面白く感じられた。

いわゆるガラス細工として世の中の一般的なイメージの、金魚などを作ってたり、グラスの表面やブローチの内部に美しい模様を描いているような作品にも素敵なものはある。精度の高い技術でクリスタルガラスを整形したり擦ったりカットしたものも素晴らしい。でも、そもそもガラスという素材それ自体が非常にミニマムな美しさを持っている。

それに気付かされると、僕はいわゆる色ガラスを使用していない「透明」な作品にいちばん惹かれた。敢えて色を用いなくても周囲の映り込みや内部の気泡や光の加減で色彩を感じることは出来るし、「透明」さそのものを楽しんでも良いはずだ。こう言うと無理やりこじつけてるみたいだが、そういうところは僕がやっている鉛筆画とちょっと似てるようにも思えた。

特に気に入ったそのひとつは色ガラスを全く使っていなくて、「透明」なガラスだけで作られていた。水の滴のようでもある。そのなかにまだガラスが熱い状態の時に剣山で突いて作った気泡が格子状に並んでいる。配置は規則正しいが、ひとつひとつは大きさや形が異なっている。それは距離の違うところで輝く恒星のようだ。始めは表面の傷かと思ったものを良く見てみると、それはガラスの内部にあり、ごく小さい気泡が無数に集まって出来た、天の川のように流れる筋であった。恒星たちの周りで、天の川が渦を巻こうとしている。

そういえば、もうすぐ七夕ではないか。
by celtcelt | 2005-07-03 23:35 | 展覧会情報

"empty colours"雑記帳


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