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スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡

先週末、絵描き仲間3人と銀座の現代美術系の画廊巡りをした。だがどの作品も悲しいほどつまらない。いや、そう言ってはシツレイだな。僕の感覚が「現代美術」向きではないんだろう。

T画廊の女性スタッフさんがとても親切で、探していた望月通陽さんの画集を買ったり小林健二さんの本について聞いたら、関連資料をおまけにいっぱいつけてくれて嬉しかった。この作家さんたちの作品は良いと思う。でも、今日観て回ったのは、何だか僕にはひどく遠い存在に思えた。借りたら高いであろうギャラリースペースに、あんまりお客さんがはいっていないところが多かったのも気になった。

僕にとって、芸術とは生き方や感じ方を教えてくれるものだった。
アタマではなくココロに直接入ってきて、僕のうすらとぼけた眼を開いてくれたものだった。ワクワクしたりうるうるしたり、怒りをぶつけて叫んだり、悲しみを静かに癒されたり、自分も独りぼっちではないんだって共感をしたり、自分にも何か出来るかも知れないという気持ちにさせてくれるものだった。とにかく、笑顔や元気をもらう源泉であり、仲間とのコミュニケーションの媒介でもあった。

少なくとも僕にはそういうものこそが「芸術」だった。
自分の感覚がどうかしているのかなあと思ったりもするが、街のイルミネーションや浜松ではあまり見かけることがない実験的な手法の広告の方が遙かに面白く感じる。

親父の見舞いなどのため他の3人とは別れて実家へ帰った。そこで更に滅入る出来事があって、翌日最低の気分で浜松へ戻る前に、渋谷によって「スーパーエッシャー展」を観た。

ものすごい数の来場者だった。チケットを買うのに寒いところで随分と待った。けれど出てくるひとたちの顔を見ると、決して期待を裏切らない内容であるだろうと思われた。実際、会場内の熱気も圧倒的だった。そこは、美術に携わる一部の人たちの集まりではなく、あらゆる年代の様々な種類の「普通の人たち」がそれぞれに、ひとりの偉大な作家が生涯かけて創った作品を夢中になって観ている場であった。

エッシャーの作品は小さい。その小さな「絵画」でも、これだけのひとを夢中にすることが出来るのだということが、絵描きの端くれとしてとても嬉しく、また頼もしく思えた。そんな光景に、二十年前に観たマグリット展での感激を思い起こさせられた。マグリットの絵も意外と小さかったけれど、画集で見ていた絵のホンモノがそこにあって、どれも素晴らしかった。僕が絵を描き始めるのはそれから10年ほど経ってからなのだけれど、以来、音楽と共に絵もまたずっと僕のそばにあった。いま思えば僕の人生はあの日を境に変わったのだ。
..まあ、でもそれは別の話。

無料貸出の音声ガイドは、ニンテンドーDSライトによるもので、タッチペン操作で、音声と、拡大・移動が可能な画像によるコンテンツで、それだけでも優れた内容だった。場内が非常に混んでいるので、なかなか列が進まなくて思うように観たい作品にたどり着けないのだが、そういうストレスを感じなかったのはこいつのおかげだ。(これから行くひとは絶対に借りるべし。)

エッシャーは風変わりな「だまし絵」の版画家として広く知られている。だが、ただそれだけのひとではない。それをちゃんと説明するには、僕がここに書くより、僕が読んだ本を積み上げる方がいいかも知れない。とにかく、いまの最先端の「現代美術」にはあまり感じられない「美しさ」がある。エッシャーの作品は小さいけれど、どれも本当に美しい。かつてセゾン美術館でみたエッシャーの展覧会も素晴らしかったが、CGの時代に入ってエッシャーの評価は新しいステージに入ったことを実感した。

 「私たちが暮らしている世界は、
  ときには形も定かではない、渾沌としたものに見えますが、
  実は美しく、秩序ある世界なのです。
  私の版画はそのことを表そうとしています。」

 「私たちが絶対的なものだと思い込んでいるものを、
  私はもてあそんでみたくなるのです。
  たとえば、わざと二次元と三次元、平らなものと奥行きのあるものを
  まぜこぜにしたり、引力をからかったりするのが、
  楽しくてなりません。」

  (M.C.Escher 1898-1972)


僕は、自分の進むべき道について、改めて啓示を受けた思いがした。


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「スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡」 オフィシャルサイト
http://www.ntv.co.jp/escher/
by celtcelt | 2006-12-04 21:52 | 展覧会情報

"empty colours"雑記帳


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